NISA、iDeCoを始めるタイミング。60歳を超えてからでも大丈夫?
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利用者が増えているNISA(少額投資非課税制度)やiDeCo(個人型確定拠出年金)。若い世代が長期で資産を形成するための制度というイメージが強いかもしれません。
しかし、人生100年時代と言われるなか、60歳を過ぎてからも働き続ける人、退職金や預貯金の一部を運用しながら取り崩したい人も増えています。ここでは、NISAとiDeCoの概要を改めて整理したうえで、「60歳を超えてから」始める場合に押さえるべき注意点などを解説します。
税制優遇を受けながら資産をつくれる2つの制度
60歳からの資産運用を検討する前に、2つの制度について正しく理解しておきましょう。順を追って解説します。
■NISA:運用益が非課税かつ急な資金需要に対応できる
NISAは投資で得た利益(売却益・配当・分配金)が非課税になる制度です。2024年1月からスタートした新しいNISAでは制度が恒久化され、非課税保有期間が無期限になりました。長期の積立・分散に適した投資信託が対象の「つみたて投資枠(年間120万円まで)」と、株式や幅広い投資信託が対象の「成長投資枠(年間240万円まで)」の2つの枠があり、年間合計最大360万円、生涯非課税保有限度額は1800万円(うち成長投資枠は最大1200万円)となっています。
最大のメリットは「いつでも売却・引き出しが可能」な点です。60歳以降の人にとっては、医療費・介護費、住宅修繕費、子どもや孫への支援など、将来の支出に備えながら運用できます。
■iDeCo:3段階で節税できる私的年金制度
iDeCoは個人型確定拠出年金とも呼ばれる、私的年金制度です。公的年金とは別に自分で掛金を積み立て、自分で商品を選び、原則60歳以降にその運用成果を年金または一時金として受け取ります。
大きな魅力は「3つのタイミング」で税制優遇を受けられる点です。拠出時は掛金が全額所得控除の対象となり、運用益は非課税、受け取り時も年金なら公的年金等控除、一時金なら退職所得控除の対象になります。60歳以降も給与所得や事業所得があり、所得税・住民税を負担している人にとって、掛金の所得控除により、所得税・住民税の負担軽減が期待できます。
ただし、iDeCoは老後の資金づくりを目的とした制度であり、NISAのように自由にお金を引き出せません。原則として60歳以降に受け取る仕組みになっており、60歳時点で通算加入者等期間が10年に満たない場合は、受給開始年齢が段階的に後ろ倒しになります。また、60歳以降に初めて加入する場合は、加入日から5年経過した日以降に受給可能とされています。
NISAとiDeCoの年齢制限
現行のNISAは、日本国内に住む18歳以上が対象で、年齢の上限はありません。よって、60歳を超えていても口座を開設できます。売却時期も自由なので「60歳から10年間運用して、70歳から取り崩し始める」といった計画も立てやすいといえるでしょう。
一方、iDeCoに加入できるのは、現在は公的年金の被保険者(国民年金・厚生年金の加入者)で、原則として65歳未満までです。つまり、60歳を過ぎても再雇用などで厚生年金に加入している人や、国民年金に任意加入している人は継続して利用できたり、新たに始めたりすることができます。
なお、iDeCoは2026年12月に制度改正が予定されています。これに伴い、加入できる年齢の上限は、一定の要件のもとで65歳から70歳未満まで引き上げられます。
また、「第5号加入者」という区分が新設されます。60歳以上70歳未満で、老齢基礎年金・iDeCoの老齢給付金を受給していないなど一定の要件を満たす人は、国民年金の被保険者でなくとも加入・継続拠出ができるようになります。さらに施行から3年間は経過措置として、一定の条件に当てはまらない60歳以上70歳未満の人も、加入できる可能性があります。
掛金の拠出限度額も「第1号加入者(自営業者等)」は月額6万8000円から7万5000円へ、「第2号加入者(会社員・公務員)」については、企業年金の有無による差異をなくしたうえで、月額6万2000円へ引き上げられる予定です。ただし、企業年金等がある場合は、両者の合計で月額6万2000円が上限となる点には注意しましょう。
60歳を超えてから始めても大丈夫?

60歳からNISAやiDeCoを始めても問題ないのか。結論からいえば、NISAは60歳以降も活用しやすい制度です。対してiDeCoは、所得控除のメリットがあるものの、加入条件や受け取り時期や、課税について確認したうえで利用することをおすすめします。
■60代からの「NISA」
60代からNISAを始めても、「運用期間が短く意味がないのでは」と思うかもしれませんが、決してそうではありません。現在の平均寿命を考えると、60歳以降も20年~30年の時間が残される可能性があります。
仮に100万円を年率4%で20年間運用すると、税引前の評価額は約219万円です。課税口座であれば利益部分に約20%の税金がかかるため、税引後の評価額は概算で約195万円になります。一方、NISA口座であれば運用益が非課税になるため、約219万円をそのまま受け取れます。
また、退職金や年金・保険解約金、蓄えた預貯金など、60代にまとまった資金を手にする人は少なくありません。すべて銀行などに置いたままにするより、生活防衛資金を確保したうえで、一部を非課税口座で運用する選択肢は、今後の人生において有効です。
ただし、若い世代と同じ運用は避けたいところです。現役世代であれば株式中心の投資信託を長期で積み立て、市場変動を時間でならすこともできます。
しかし、60歳以降になると運用期間はどうしても相対的に短くなります。「大きく増やす」ことよりも「減らし過ぎない」「必要な時に使えること」が、より重要です。株式100%の投資信託に資金を偏らせるのではなく、債券、バランス型ファンド、預貯金などを組み合わせる方法が現実的でしょう。
なお、今後の制度改正では、NISAのつみたて投資枠において、これまで除外されていた債券中心の投資信託が対象商品に加わる方針が示されています。金融庁は「リスク許容度が高くない若年層や高齢層が投資の第一歩を踏み出せるようにするのが狙い」と説明しており、シニア世代にとっては朗報です。
従来のつみたて投資枠は、株式中心の商品が多く、価格変動リスクが高いと感じられる場合もあるようです。債券型や守り重視のバランス型ファンドの選択肢が広がれば、60代以降の「守りながら使う」フェーズにも対応しやすくなるでしょう。
■60代からの「iDeCo」
iDeCoも条件を満たせば、60歳以降に始める意味はあります。特に働いて給与所得がある、自営業を続ける、役員報酬を受け取る人などは、掛金の所得控除により税負担を軽減できる可能性があります。
一方、所得がなければ所得控除のメリットは小さくなります。たとえば、すでに完全に退職しており課税所得がほとんどない場合は、掛金を拠出しても所得控除の恩恵は限定的です。
受け取りまでの期間にも注意しなければいけません。60歳以降で初めてiDeCoに加入する場合、原則として5年経過しないと受給できない決まりです。近い将来に使う予定の資金を投じるのは避けましょう。
また、iDeCoは受け取り時にも税制優遇があります。ただし、退職金や企業年金、公的年金との兼ね合いで課税関係が変わります。
たとえば、2026年1月1日以後にiDeCoで一時金を受け取り、その後に会社の退職金を受け取る場合、退職金を受け取る年の前年以前9年内に受け取ったiDeCoの一時金は、退職所得控除の重複調整の対象になります。その結果、退職所得控除額が少なくなり、税負担が増える可能性があります。加入時期の節税効果だけではなく、受け取り方や受け取り時期まで含めた出口戦略を考える必要があります。
60代からのNISAとiDeCo、どう使い分ける?
両者をどう使い分けるのかも気になる点です。基本的にはNISAを優先し、所得がある人はiDeCoを検討するという順番がわかりやすいでしょう。
NISAは、前述のように引き出しの自由度が高く、急な支出にも対応しやすいのが特徴です。投資の初心者や老後資金を柔軟に管理したい人に向いています。
一方、iDeCoは老後資金を目的に、すぐに引き出す必要のない資金を積み立てる制度です。60歳以降も働き、税負担が続く人にとっては、掛金の所得控除は大きなメリットになるでしょう。ただし、資金の拘束や受け取り時の税制を理解したうえで活用しないといけません。
60歳以降にNISAやiDeCoを始める場合、まずは「いつ、何に使うお金か」を確認しましょう。1~3年以内に使う予定がある資金は、投資ではなく預貯金で確保するのが基本です。生活費の半年から2年分程度、医療・介護費、住宅修繕金などの予備資金は、価格変動のある商品に回さない方が安心です。
運用期間は長く見積もらないことも肝心です。60歳からでも健康であれば20年、30年と運用する可能性はありますが、若い世代に比べると相場の急落から回復するまでの時間的余裕は限られます。
NISAであれば先述した債券中心の投資信託を加えるなど、運用商品は慎重に選びましょう。また、積み立てるだけではなく、老後の暮らしや健康状態と照らし合わせ、いつ、どのように取り崩すかも計画しておくことが大切です。
手数料にも注意しましょう。NISAでは投資信託の信託報酬、iDeCoでは運営管理機関の手数料や国民年金基金連合会などに支払う手数料が発生します。運用期間が短かったり少額で始めたりすると、手数料がリターンに対して相対的に大きくなりかねません。金融機関や商品を選ぶ際は、手数料水準も必ず確認しましょう。
また、高齢期の資産運用では、本人の判断能力が低下した場合に、家族が口座や資産状況を把握できない状況になることもあります。どの金融機関に口座があり、どんな商品を運用しているのかを、信頼できる家族に伝えておくことも検討しましょう。
NISAとiDeCoは、若い世代だけの制度ではない
NISAとiDeCoは、若い世代だけの制度ではありません。現状でも制度上の問題はなく、今後の改正により活用できる年齢の幅はさらに広がる見込みです。
ただし、60歳以降で意識すべきポイントは「高いリターン」や「長期の値上がり益」を狙わないことです。生活資金を守る部分、インフレに備えて運用する部分などをわけて考え、リスクを取り過ぎず制度のメリットを自身のライフプランに合わせて使うことが大切です。
活用法を間違えなければ、60歳以降の資産寿命を延ばすための有力なツールになります。年齢だけで「もう遅い」と判断せず、自身の収入や資産状況、健康状態、家族構成、将来の支出予定を踏まえ、無理のない範囲で制度を活用しましょう。

