親が認知症になると、運用していた資産はどうなる? リスクと対策を解説
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日本では高齢者人口の増加とともに、認知症を抱える方も増えています。「自身の親が認知症になる」というケースに直面した人は少なくないでしょう。
しかし、認知症は「物忘れが増えた」というだけの病気ではありません。症状が進むと本人による契約行為や財産管理が難しくなり、資産運用にも大きな影響を与えます。ここでは、高齢の親が認知症になるとどういった事態に直面するのか、子どもはどう対応すべきか、事前の備えなどについて解説します。
認知症になると「資産凍結」のリスクが生じる
2022年に公表された厚生労働省「認知症及び軽度認知障害(MCI)の 高齢者数と有病率の将来推計」によると、認知症の人の割合は約12%(約443万人)、認知症の前段階とされる軽度認知障害(MCI)の人の割合は約16%(約559万人)と推計されました。両方を合わせると、約28%になり、高齢者の約3人に1人が認知機能にかかわる症状があるとされています。今後はさらに増え、認知症については2040年に約15%(約584万人)、2060年には約18%(約645万人)に達すると推計されています。
認知症によって問題となるのは、「本人の意思確認ができない」と判断されることです。金融機関では、名義人保護や不正防止の観点から預金の引き出しや金融商品の売買、保険契約の加入・変更などについて、原則として本人の意思確認を必要としています。
ところが、本人の意思確認ができない、すなわち判断能力を失ったとみなされると法律上の契約行為はできなくなります。一般に判断力が低下した状態とは、認知症が進行したことが原因で「本人が窓口まで来られない」「名前・生年月日が言えない」「適切に署名ができない」状態と言われています。
金融機関はこのような状態を把握すると、「名義人の判断力が低い」と判断し本人の資産を守るため口座の入出金を制限せざるを得なくなります。これが、いわゆる「資産凍結」であり、たとえ家族であっても、自由に資産を動かせなくなる可能性があります。具体的には、以下のようなケースが発生します。
ケース① 銀行口座の凍結
銀行は名義人の認知症を把握した時点で、名義人本人の資産を守るため、口座を凍結する場合があります。凍結されると、名義人や家族、親族も一時的に「預金の引き出しや入金」「他の口座への振り替え」「口座の解約」の手続きができなくなります。
ただし、銀行が認知症を把握した際、一律に凍結されるわけではありません。全国銀行協会「預金者ご本人の意思確認ができない場合における預金の引出しに関するご案内資料」によれば、「預金者ご本人の生活費、入院や介護施設費用等のために資金が必要でお困りの際は、まずはお取引銀行窓口までご相談下さい」とあります。
相談時には、通帳・届出印、来店する家族の本人確認書類、本人との関係がわかる書類、介護施設費用の請求書など、資金使途がわかる資料を求められる場合があります。必要書類や対応範囲は金融機関によって異なるため、まずは取引銀行に確認しましょう。
ケース② 証券口座の取引停止
資産運用においてもっとも深刻な影響が、証券口座の取引停止です。株式や投資信託の売買は契約行為に当たり、正常な判断能力が前提となります。取引ができなくなると、相場が急落しても損切りができず、リバランスや現金化といった運用方針の変更も難しくなります。
ケース③ 不動産の売却
自宅や収益物件を売却しようとしても、本人の意思が確認できなければ売買契約は結べません。親が介護施設に入り実家が空き家になったら、維持費や固定資産税の負担だけが残るリスクもあります。
ケース④ 保険契約の見直し
認知症になり判断能力が低下すると、保険契約の変更・解約ができなくなります。家族が本人に代わり無断で解約手続きを進めると、無効と判断される可能性があります。
契約内容を忘れてしまい本来受け取れる保険金・給付金が請求されないこともあります。とりわけ外貨建て保険や変額保険などは為替や市場環境により価値が変動するため、本来であれば定期的な見直しが必要な商品です。しかし、本人が認知症になると、これらの手続きが難しくなる場合があります。
このように、認知症になり資産が凍結されると、運用関連の手続きができなくなる可能性があります。実際には完全に凍結されるわけではありませんが、家族であっても自由に動かせなくなるため、介護費用や施設入居費用を親の資産から捻出したくても、容易に引き出せないケースも発生するようです。
子どもができる対処法

認知症によるリスクを避けるには、親の判断能力があるうちから準備をしておくことが大切です。順にポイントを見ていきましょう。
ポイント① 親の資産状況を把握する
まずは「どの銀行を使っているか」「証券口座の有無」「保険契約の内容」「不動産の所有」「ローンや借金の有無」など、親の資産状況を把握しておきましょう。こうした情報を家族が知らないまま認知症になると資産の全体像がわからず、対応が困難になります。
特に現在はネット銀行やネット証券を利用する人も増えています。利用している金融機関名、重要書類の保管場所など、家族が把握しておくことが大切です。
ポイント② 法的な仕組みの活用
法的な仕組みの活用も検討しましょう。「家族信託」「成年後見制度」の2つがあります。
1つ目は、親が元気なうちに子どもなど信頼できる家族に財産管理を任せる「家族信託」です。これは、親を「委託者」、子どもを「受託者」として契約を結ぶことで、親が認知症になった後に子どもが財産管理や運用を継続できる仕組みです。不動産の売却や資産の組み換え、金融商品の管理などにも対応できるケースもあるので、近年活用が広がっています。
2つ目は、認知症などにより財産管理や法的行為を行うのが難しい人をサポートする「成年後見制度」です。選任した成年後見人が、資産管理だけではなく介護サービスの契約なども手伝ってくれます。
成年後見制度には「任意後見」と「法定後見」の2種類があります。前者は、本人が元気なうちに将来判断能力が低下した場合に備え、後見人や支援内容をあらかじめ決めておく制度のこと。家族など信頼できる相手を、自分自身で選べるのが特徴です。
一方、すでに判断能力を失っている場合、家庭裁判所が成年後見人を選ぶのが法定後見制度です。弁護士や司法書士など、専門家が選ばれるケースもあるようです。ただし、コストの負担が大きいとされており注意が必要です。
認知症になった後の資産管理や契約手続きに役立つ成年後見制度には、費用がかかります。たとえば、家庭裁判所に制度の開始を申し立てる際の「申し立て手数料」、成年後見人の登記にかかる「登記手数料」、任意後見契約の公正証書を作る際の「公正証書作成の基本手数料」などです。
また、法定後見人に専門家が選ばれると、本人が亡くなるまで報酬が支払われることもあります。さらに成年後見制度は財産の「保全」を目的とするため、株式の売買など積極的な資産運用は原則として認められない点も理解しておきましょう。
親の資産運用と管理における注意点
親の資産を守るつもりが、かえってトラブルを招くこともあるようです。以下の点に注意しましょう。
注意点① 暗証番号やIDは「共有しない」
親が認知症になっても、「キャッシュカードの暗証番号を知っているから大丈夫」と考える家族は少なくありません。ただし、家族が勝手に引き出すと銀行の規約違反に当たる可能性があります。
家族の誰かが単独で多額の引き出しを行うと、他の家族から使い込みを疑われ、将来の相続トラブルの火種にもなりかねません。キャッシュカードや金融機関の口座のIDや暗証番号は、共有しないようにしましょう。
注意点② 親の証券口座を勝手に操作しない
親の証券口座を使って勝手に操作することや、本人に代わって売買することは避けるべきです。運用をするのであれば、判断力が低下する前に「家族サポート証券口座」などのサービスを利用することが望ましいでしょう。
「お金の話を避ける」は、リスクになる
日本では「親子間でお金の話はタブー」という家庭が珍しくありません。ところが、資産状況を知らないまま親が認知症になると、介護費用に必要なお金をすぐに引き出せない、相続手続きが複雑化する、空き家問題が発生する、家族間でトラブルになるなど、後々大きな問題につながる可能性があります。保有資産や契約内容、管理方法、今後の希望などについて、定期的に家族会議を開き情報を共有しておきましょう。
その際は、特定の子どもだけが親の資産を把握している状況は避け、利用している金融機関名や口座番号、保険内容、不動産、重要書類の保管場所は、親本人の同意を得たうえで、兄弟姉妹で共有しておきましょう。家族だけで話し合うと感情的になる場合は、FP(ファイナンシャルプランナー)や司法書士などの第三者を交えると、客観的・冷静な議論ができます。
高齢者の資産運用が一般化した現在では、認知症による資産凍結は、多くの家庭にとって現実的なリスクになりつつあります。元気なうちから資産状況を把握し、親が運用の継続を希望するなら家族信託、家族サポート証券口座、任意後見、金融機関の代理人制度など、事前に利用できる仕組みを比較検討しておくことが大切です。すでに症状が進行している場合は成年後見制度などの法的枠組みを活用し、本人の生活や財産を守れるように整えておきましょう。
親が築いてきた資産を、本人の希望に沿って生活や介護のために使える状態にしておくことが大切です。定期的に実家へ顔を出し、親の健康状態を確認するとともに、将来の安心できる暮らしと資産について話し合う時間を設けましょう。

