金利上昇による景気・生活・資産形成への影響
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長らく続いた超低金利政策が転換を迎え、私たちは「金利のある世界」へと足を踏み入れています。背景には、物価高や賃金の上昇があります。その流れを受けて2025年12月、日本銀行は政策金利を引き上げました 。この金利上昇は私たちの生活やお金にどう影響するのでしょうか。ここでは、「景気」「生活」「資産形成」の3つの視点から解説します。
お金を借りる際のコスト。景気や日常生活への影響は大きい
金利とは、お金を借りる際のコストです。お金を借りれば金利を支払い、お金を貸せば利子としてお金を受け取ります。たとえば、住宅ローンや自動車ローンのためにお金を借りる場面では、借入額に応じて利息を払います。そのため、消費者視点で見ると、金利上昇とは「コストが上がることで、家計の負担が重くなること」を意味します。まずは景気への影響を考えてみましょう。
金利は「景気」に影響する
日本銀行など各国の中央銀行が金利を引き上げる大きな目的の一つに、過度なインフレ(物価上昇)の抑制が挙げられます。金利が低いと、お金が借りやすいため、企業や個人がモノ・サービスを購入する意欲が高くなります。しかし、多くの企業や人がモノ・サービスを購入しようとすれば、供給が追いつかず、モノ・サービスの値段が上昇します。物価が上昇すれば、買い控えによる消費の低迷、景気の減速につながりかねません。
それらの対策として中央銀行は、金利を引き上げ、借入コストを高めて物価を安定させようと試みます。消費や投資が落ち着くことでモノやサービスの価格上昇圧力を和らげようとしているのです。つまり、金利の引き上げとは、景気の過熱を冷まし、経済を適正な温度に保つための処方箋なのです。
企業が新しい工場を建てる、システムを開発するなど設備投資をする際、多くは銀行からの借入や社債の発行で資金を調達します。金利が上昇すると新規の資金調達に伴う支払利息が増えやすくなります。そうなれば、新規の投資に慎重になり経済活動全体が抑制されることになりがちです。また、既存の借入があれば利益が出ていても、支払利息に圧迫されるため業績の下振れ要因となり、新規の雇用や賃上げにもブレーキがかかる可能性があります。
金利は為替相場を動かす原動力にもなります。投資マネーは基本的に「金利の低い通貨から高い通貨へ流れる」性質があります。その方が高い利息を得られるからです。たとえば、日本の金利が上昇し、アメリカなど海外との金利差が縮小すると、これまで高金利を求めて海外へ流出していた資金が日本円に戻る動きが活発になり、円高要因の一つになります。
円高になれば、輸入品の価格が下がるため、海外から資源やモノを多く調達する企業や、日常生活で輸入した製品・サービスを使う個人の家計にプラスに働きます。一方、円高になると、日本から海外へ輸出した商品の価格は割高になります。自動車など輸出企業の業績には、円高はマイナスに作用します。
このように、金利上昇は経済の過熱を防ぐ調整弁であると同時に、景気を冷やすリスクにもなり得るのです。
金利は「生活」にも影響する
金利上昇による景気の変化は私たちの日常生活に直結し、家計にとって恩恵と負担増の両面をもたらします。
特に大きいのは住宅ローンに対するインパクトです。住宅金融支援機構が実施した「住宅ローン利用者の実態調査(令和7年6月)」 によれば、日本の住宅ローン利用者の79%は変動金利を選択しています。住宅ローンは、日本銀行の政策金利や市場金利などに影響されて見直されるため、金利が上昇すると見直し時に毎月の返済額や総支払額が増加することになります。
たとえば、3000万円を35年返済で借り入れている場合、金利が1%上昇するだけで総支払額は数百万円規模で跳ね上がります。自動車ローン、カードローンなども同様で、借り入れが多い世帯ほど負担は増します。手軽に借金をして消費をすることは難しくなり、これまで以上に計画的な資金管理を徹底することが求められます。
金利の上昇は、ネガティブな影響ばかりではありません。金利上昇により、ゼロに近かった銀行の預金金利は上昇するため、これまでほとんど利息がつかなかった普通預金や定期預金から、わずかながらも利息収入が得られるようになります。
日本銀行が発表した「金融システムレポート(2025年4月号)」 によれば、金融機関の多くは、普通預金の金利を0.2%程度に設定しています。5000万円の預金で利息0.2%であれば、税引前では年間10万円の収入になります。多額の現金を保有する世帯にとっては、プラスの変化といえるでしょう。
ただし、インフレ率が預金金利を上回っている状態では、お金の実質的な購買力は目減りしている点には注意しなければなりません。金利が上がったので資産の多くを預貯金に向けるのではなく、目的などに応じて資産を見直すことが大切です。
金利上昇は、「借りている人には逆風」「貯めている人には追い風」になります。家計の構造により明暗が分かれる特徴を理解しておきましょう。
投資環境にも大きな変化。資産クラスによって異なる動き

資産形成を考えるとき、金利上昇は投資環境を大きく変える要因になります。資産配分を見直すタイミングと考えた方がよいかもしれません。預金、株、債券、不動産など、資産の種類によって異なる動きを見せるため、注意が必要です。
株式市場では、一般的に金利上昇はマイナス要因とされます。たとえば、まだ世の中にないサービスを開発している会社があるとします。今は利益が小さくても、「数年後に大きく成長しそう」という期待から株が買われています。ところが金利が上がると、投資家は預金や債券でも利回りを得やすくなるため、その会社の株をそこまで強気に買わなくてもよいと考える傾向があります。結果、売る人が増え、株価は下がりやすくなります。
なかでも将来の高い成長を期待して買われるIT企業や新興企業などのグロース株(成長株)は、金利上昇局面で調整を受けやすくなります。反対に、すでに安定した利益を出し配当利回りが高いバリュー株(割安株)や、金利上昇により貸出利ざやが拡大し直接的な収益向上につながる銀行や保険など金融株には、資金が集まりやすくなります。
金利が上昇すると、債券市場では既存債券の価格下落と、新規債券の魅力向上の動きが見られます。債券価格と金利は逆の動きをするため、世の中の金利が上がるとすでに発行されている低金利の債券は魅力が薄れ、売られて価格が下がります。
しかし、新たに発行される債券の利回りは上昇するので、手堅く運用できる安全資産としての魅力は高まります。長期的な視点に立つと、金利上昇後は新規で債券投資をするメリットが高まる局面といえるでしょう。
不動産投資においても、金利上昇は逆風となります。借入金利が上昇するとローン返済額が増え、投資家の手元に残る利益(キャッシュフロー)は減ります。その結果、利回りが低下し、物件の魅力が低くなります。新規で不動産を買いたい人が減り、物件を手放す投資家も増えやすくなります。利回りが低下することで不動産価格が下落しやすくなるといえます。
たとえば、預金や国債など低リスクな金融商品の金利が上がると、不動産との利回りの差が縮まります。空室リスクがあり、専門知識が必要な不動産に投資するのは、相対的に魅力が薄れるかもしれません。ただし、物価上昇に伴い家賃を引き上げられる機会となることもあり、影響は一概にはマイナスとは言えません。
また、先述したように預貯金は金利上昇局面において、相対的な安全資産としての魅力は増します。リスクを取らずに一定の利息を得られるため、資産配分のなかで現金比率を見直す動きも重要になるでしょう。
このように、金利上昇は私たちの暮らしに影響を与えます。もっとも優先すべきは負債の管理でしょう。特に変動金利の住宅ローンを借りている場合は固定金利への借り換えを検討したり、余裕資金で繰り上げ返済をしたりするなど、金利上昇リスクを軽減する対策を検討することが大切です。
株式など、1つの資産に偏った運用もリスクを高めます。利回りが高くなった債券をポートフォリオに組み入れる、グロース株だけではなく高配当株や金融株に分散させるなど、さらなる分散投資を心がけることが重要です。
近年は「貯蓄から投資」への動きが加速しています。だからといって、資産の多くを投資に回す必要はありません。金利が上がると現金の価値が相対的に高まるので、預金金利の上昇を享受しつつ、市場が大きく下落した時の投資機会を逃さないための待機資金として確保しておくのもよいでしょう。
金利上昇は景気や生活コストを変化させ、資産形成の前提条件を再考するきっかけになります。しかし、影響を正しく理解し冷静に対処すれば、資産を堅実に育てるチャンスにもなり得ます。家計や投資のスタンスに合わせて、柔軟に対処していきましょう。

