令和8年度(2026年度)税制改正大綱から読み解く、これからの資産形成戦略
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2025年12月26日、政府が閣議決定した「令和8年度(2026年度)税制改正大綱」。投資家や資産形成に取り組む方にとって影響の大きいトピックが多数盛り込まれました。ここでは重要なトピックを取り上げ、制度変更の概要や個人へのインパクトについて解説します。
税制改正の基本方針をまとめた文書
まず税制改正大綱とは、毎年年末に政府が取りまとめる税制改正の基本方針で、翌年度以降の税制の骨格を示す文書です。ここに盛り込まれた内容をもとに国会で審議・法案化され、成立すれば翌年以降の税制として実施されます。税制改正大綱は、政府がどこに資金を向かわせたいかというメッセージとも言えます。
近年の税制改正では、日本人の金融資産の多くが預貯金に偏在している状況を踏まえ「貯蓄から投資へ」の流れを促す政策が重視されてきました。令和8年度も同様で、国が個人の資産形成・運用を強力に後押しし、貯蓄から投資へのシフトをさらに加速させようとする意図が窺えます。一方で、制度の歪みをついた富裕層の過度な租税回避に対しては、厳しい規制が設けられることになりました。
税制改正大綱の「投資」や「資産運用」トピック

ここからは、資産運用に関わる代表的なトピックをいくつか取り上げ、ポイントを整理していきます。
トピック① 未成年も使えるNISA(少額投資非課税制度)の拡充
NISAに関しては、制度の拡充が明記されました。現行NISAの対象年齢は18歳以上ですが、今回の改正により、「つみたて投資枠」に限って0歳から17歳までの未成年が利用できる通称「こどもNISA」が、2027年1月から開始されると示されています。年間投資枠は60万円、非課税保有限度額は600万円に設定され、18歳になると成人向けのNISAへ自動で移行します。
子どもが12歳以上になると、本人の同意を得たうえで金融商品を売却し、資金を引き出せるようになります。かつて存在した「ジュニアNISA」は18歳まで原則引き出し不可という制限から利用が低迷しましたが、今回の新制度では柔軟な払い出し条件が設けられました。
子どもの教育資金づくりと言えば学資保険が定番でしたが、今後は「こどもNISA」が加わります。仮に0歳から17歳まで定額を積み立てると、非課税のメリットを享受しながら教育資金を形成できます。親や祖父母からの教育資金贈与を投資の原資にすることで、持続的に運用しやすくなるでしょう。
また、「つみたて投資枠」の対象商品も、従来の「主に株式に投資する公募株式投資信託」から、今回の改正では「主に株式や公社債に投資するもの」へと要件を緩和。これにより、債券中心の投資信託やバランス型投資信託も新たに加わることが見込まれます。これは、リスク許容度が高くない若年層や高齢者のニーズに応えるものであると金融庁は説明しています。
トピック② 暗号資産の申告分離課税の適用
これまで、暗号資産の売却益は「雑所得」として総合課税の対象とされ、「所得税の最高税率(45%)+住民税(10%)」で、最大55%の課税が生じる可能性がありました。株式や投資信託、FXの売却益は申告分離課税20.315%(所得税15%+住民税5%+復興特別所得税0.315%)であり、大きな税率差が指摘されてきました。今回の改正で、暗号資産取引業者が取り扱う「特定暗号資産」については、申告分離課税へと移行することが明記されました。
さらに特筆すべきは、「損失の3年間繰越控除」も可能になる点です。現行では、大損をした翌年に大きな利益が出ても、過去の損失と利益が相殺できず多額の税金が発生しました。しかし今後は、株式と同様に、損失を翌年以降3年間にわたり相殺できるようになります。
適用時期は、「金融商品取引法の改正法の施行の日の属する年の翌年の1月1日」とされています。現在多くの含み益を抱えている投資家は、税率が下がるまで持ち続ける、あるいは損失の繰越控除を見越してポジションを保有するといった戦略が考えられます。
政府は「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画 2025年改訂版」において、暗号資産を「国民の資産形成に資する金融商品」と位置づけています。今後、同資産を取り巻く環境は、大きく変わりそうです。
トピック③ 貸付用不動産の相続税評価が厳格化
貸付用不動産を用いた相続税対策には、さらなる規制が設けられます。これまで、現金で持つと額面通り100%の評価となる財産も、貸付用不動産(土地・建物)に組み替えることで、路線価や固定資産税評価額ベースでの計算となっていました。それに加え、「貸家建付地」なども適用されたことで、時価の3割から4割程度まで相続税評価額を抑えられる場合がありました。
ところが今回、「取得から5年以内の貸付用不動産」に関しては、従来よりも実際の売買価格に近い金額で評価される方向に見直されています。令和8年度税制改正大綱には「不動産特定共同事業契約又は信託受益権に係る金融商品取引契約のうち一定のものに基づく権利の目的となっている貸付用不動産については、その取得の時期にかかわらず、課税時期における通常の取引価額に相当する金額によって評価する」とされています。その上で注記として「課税上の弊害がない限り、被相続人が取得した貸付用不動産の100分の80に相当する金額によって評価することができる」と示されています。
そのため、これから駆け込みで賃貸不動産を購入しても、取得から5年以内の貸付用不動産の相続になれば購入金額の8割の評価額になる可能性が高いため、今までと同じような節税効果は得られなくなるでしょう。
都心の一等地などの不動産を一口数百万円から購入できる「不動産小口化商品」についても、取得時期を問わず通常の取引価額に相当する金額で評価するという方針が示されました。いずれの改正も、2027年1月1日以後に相続等で取得する不動産について適用される見通しです。
トピック④ 住宅ローン控除の延長と緩和
住宅ローン控除(減税)は、2030年(令和12年)末まで5年間延長されました。また、これまで原則50㎡以上だった床面積要件も、2026年以降は40㎡以上に緩和。コンパクトな住宅でも対象になります。ただし、合計所得金額が1000万円を超える場合や、子育て世帯などへの上乗せ措置を利用する場合は、引き続き50㎡以上が対象です。
また、新築住宅ではZEH(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス:高い断熱性能と省エネ設備、太陽光発電などにより、年間の一次エネルギー消費量が実質ゼロになる住宅)水準の住宅が優遇されるようになります。省エネ性能の高い既存住宅についても借入限度額を引き上げ、子ども世帯・若者夫婦世帯への借入限度額の上乗せを講じるとともに、控除期間を13年間に拡充します。
トピック⑤ 教育資金の一括贈与非課税措置が終了
親や祖父母から子ども・孫への教育資金の一括贈与について、最大1500万円まで贈与税が非課税となる特例措置が、2026年3月31日で終了することも示されました。制度があまり活用されていないこと、格差の固定化への懸念、教育費の無償化の進展、新NISAの拡充などが影響した可能性があると指摘されています。
この措置を現在利用している、活用を検討している人は早急な確認が必要です。2026年4月以降に同様の贈与を行う場合は通常の贈与税が課税されるため、教育費準備の代替手段として、こどもNISAや一般的な暦年贈与(年間110万円の基礎控除活用)を組み合わせた戦略へのシフトが現実的な対応となるでしょう。
令和8年度(2026年度)税制改正大綱が示す方向性
今回の税制改正大綱を俯瞰すると、「長期・分散・積立」による資産形成や、暗号資産といった新しい成長分野へのリスクマネーの供給を国が支援する一方で、不動産を使った露骨な富裕層向けの節税スキームには是正を図るというメッセージが浮かび上がります。
ここからわかるのは、時間を味方につけて健全に資産形成する人ほど恩恵を受けやすく、制度の歪みをついた戦略は通用しにくくなるということです。税制は毎年変わりますが、方向性を読み取ることで、資産形成・運用の軸は明確になり、自身の状況に合わせて柔軟なポートフォリオを組むこともできます。これからの時代には、税制に対するリテラシーを高めながら投資スキルを磨いていくことが求められています。

